声優·堀江由衣 人生における3つの分岐点
堀江由衣「どの現場でも自分がいちばん下手」と語るストイックさが生まれた理由。 初ヒロイン作『鉄コミュニケイション』で先輩声優や音響監督から学んだ“声の職人”としての心得とは?
堀江由衣「どの現場でも自分がいちばん下手」と語るストイックさが生まれた理由。 初ヒロイン作『鉄コミュニケイション』で先輩声優や音響監督から学んだ“声の職人”としての心得とは?
2022年5月13日 (金) 11:00
人気声優たちが辿ってきたターニング・ポイントを掘り下げる連載企画、人生における「3つの分岐点」。
大塚明夫さん、三森すずこさん、中田譲治さん、小倉唯さんに続き、今回は堀江由衣さんにインタビューを実施した。
堀江由衣さんといえば、『ラブひな』成瀬川なる、『化物語(シリーズ)』羽川翼、『フルーツバスケット』本田透、『Kanon』月宮あゆ。
挙げればキリがないほどの人気キャラクターを演じ続ける声優のひとりだ。
また、アーティスト、ラジオパーソナリティとしても、幅広く活躍している。
輝かしいキャリアの中で、膨大なエピソードがあるはずだが、「人生の分岐点」として挙げた3つは、意外にも小学校1年生からデビューまでの出来事だった。
また、この3つのすべてに、ひとりの一般人のお友達が深く関わっているという、普段のインタビューではなかなか語られない「堀江由衣の原点」ともいえる話をたくさん聞くことができた。
どの作品にも紐づくことがないまっさらな堀江由衣として語られた、多くのファンの期待をいい意味で裏切ってくれる貴重なインタビューになったと思う。
小学校から現在まで、声優・堀江由衣の生きざまを、ぜひ覗いてみてほしい。
文/前田久(前Q)
編集/金沢俊吾
撮影:金澤正平
分岐点1:子供の頃に、ひとりの友達に出会う
──本日は「人生の3つの分岐点」というテーマでお話をうかがえればと思います。
堀江:
はい! よろしくお願いします!
あの、取材依頼を受けたときから思っていたんですけど、なんかすごくプレッシャーがかかりますよね、このインタビュー(笑)。
──無茶ぶり感あってすみません(苦笑)。受けていただけるみなさんには、感謝の気持ちしかないです。
堀江:
これって、先に3つ挙げた方が質問しやすいですよね? きっと。
──お気遣いありがとうございます。そこは逆に、堀江さんの話しやすい形でお願いできれば。
堀江:
じゃ、先に言っちゃいます!
まずひとつめが、「子供の頃に、ひとりの友達に出会う」。次が、その友達と出会ったのと同じくらいの時期に、「とある作品に出会う」。最後が高校卒業後、大学1年のとき、「オーディションを受けて声優の養成所に入る」。これが私の人生の3つの分岐点で、そして、実は全部が繋がっている出来事でもあります。
──なんだかミステリーの謎解き予告のようですね。どれも気になります。 順番にくわしく聞かせてください。まずは1つめ、子供の頃に、ひとりのお友達と出会われた。
堀江:
正確には、小学校1年生のときですね。その子の通学路の途中に私の家があって、朝にばったり会って、「あ、同じクラスの子だ!」とお互いに驚いて。それから、なんとなく毎日一緒に学校に通うようになったんです。
──小学校でよくあるやつですね。
堀江:
そのクラスの子……「ちーちゃん」とは、それくらいの軽い始まりから仲良くなって、小学校の間はひたすら、毎日のようにずっと遊んでいたんです。クラスが離れたりすると遊ぶ回数が減りはしたんですけど、それでも付き合いは続いて。
中学校も同じで、一緒にバレー部に入って、中学校にもなると学校生活も何かと忙しくなるんですけど、それでも遊ぶ機会は多かったですね。
──それは本当に親しい友達ですね。
堀江:
高校と大学はお互いに全然違う学校に行ったんですけど、それでも時間を見つけて遊んでて。
もっと大人になって、お互いに忙しくなってからも、節目というか、折を見ては遊び続けています。人生の大半を一緒に過ごしてる……というと大げさだけど、間違いなく、ちーちゃんは会った回数の一番多い友人ですね。今でも関係が続いています。
──そこまでの幼なじみは珍しいと思います。
堀江:
そうですね。本当に子供の頃は、ずっと一緒にいた感覚でした。そして、ちーちゃんは、私が声優になる、決定的なタイミングにもずっと関わっていたんです。
──そこまでですか! 「ちーちゃん」から与えられた影響で、大きなものはたとえば、どんなところですか?
堀江:
私がもともと、そんなに社交的な子じゃなかったんです。といっても、極度の人見知りとかではなくて、なんというか「普通の子」って感じで。
でも、ちーちゃんはとにかく人気者だったんです。アクティブで、あと、今思うと、すごくフリートークが上手い(笑)。
──長年ラジオをやっている堀江さんが認めるフリートークの上手さ!
堀江:
話が面白い子って、やっぱり自然と人気者になるじゃないですか。しかもかわいくて、男の子にもモテてたんですよ(笑)。
仲がいいことが、ものすごく誇らしい、自慢に思えるような友達だったんです。もちろん、私自身もちーちゃんのことが大好きだし、一緒にいて楽しいし。
で、そんな子だから、私と他の子たちとの架け橋にもなってくれていたんですよね。一緒にいると自然と話す人が増える、みたいな。
「人付き合いの窓口」じゃないですけど、ものすごくきっかけをくれたなあって、今振り返るとあらためて思うんです。
いまに繋がる、ボイスドラマを作って遊んだ経験
堀江:
ふたりのあいだで、何かしらが突然ブームになるんですよね。ローラースケートだとか、バレーボール、バドミントン、トランプのスピード。
子供の頃って、興味の赴くままにいろいろあるじゃないですか。そういうのを全部一緒にやってました。
──いいですねえ。ほんとに仲良しそうで。
堀江:
その中でも一番流行った遊びが、今の仕事にちょっと通じるんですけど、自分たちの声を録音して、今でいうボイスドラマみたいなものを作って遊ぶことなんです。
──なんと。
堀江:
他の遊びもするんですけど、それだけは特別な遊びで、常にそれが自分たちのスタンダードなものとしてあった。
特別な人しか仲間に入れない、秘密の遊びみたいなところもあって。それを共有していることでより、ちーちゃんとの関係が密になった気もしますね。
──その遊びで、堀江さんはどういう役柄を演じることが多かったんですか?
堀江:
いちおう役の設定も作っていた気もするんですけど、どちらかというと、「こういう事件が起こります」という概要の方が大事で、役は名前をちょっとつけているだけ、みたいな感じだった覚えがあります。
お芝居の練習としてやるエチュード(即興劇)に近い雰囲気でした。その中でも割と、謎を推理したり、やっていることに筋道を立てたいタイプでしたね。ちーちゃんは、割と事件を起こしていくタイプで。
──事件?
堀江:
「何か展開がないな」というときに、「あそこを見て! 誰かが倒れてる!」みたいな、展開が生まれそうなことを言い出す人です。
私はそれを受けて、「きっとこの人はこういう理由で倒れたのかしら」みたいな筋道をつけていくタイプだったんです。
──なるほど。そして、そんなところでもふたりは相性がよかったんですね。ボケとツッコミのような。
堀江:
そうそう。ボケとツッコミもそうですけど、話題を展開するタイプと整理していくタイプで、ちょうどよかったんです。
──そんな相性のいい方と偶然出会えたというのは、それはたしかに大きな分岐点ですね。
堀江:
そうですね。若い頃って学校が全てになってしまいがちで、そこで人間関係が上手く行かないと落ち込んでしまう時期もあるじゃないですか。
でも私、たぶん、何があっても「ちーちゃんといちばん仲がいい」ということだけは変わらなかったから、そこでちょっと救われてた……とまでいうと大げさですけど、助けられてた部分が割とあると思います。
分岐点2:アニメ『ダーティペア』に出会う
──ちーちゃんと遊んでた頃「とある作品」に出会ったのが、ふたつめの分岐点であるとのことでした。
堀江:
よくインタビューとかでも「声優になったきっかけ」として挙げるタイトルではあるんですけど、とある作品というのは、アニメ『ダーティペア』が本当に大好きで。
ユリとケイという女の子二人組が事件を解決していくお話で、ふたりとも強くて、性格は破天荒。とにかく女子から見てもかっこいい、憧れる二人組の痛快活劇だったんですよね。映像のテンポも良くて、お話の内容も面白くて、毎回、ちょっと謎解きみたいな要素もあって。
ちーちゃんも一緒にハマったんですけど、私はユリ派、その子はケイ派だったんです。そこもばっちり合ったんですよね。
──それは絶妙ですね。キャラの推し被りもなく。
堀江:
ふたりで『ダーティーペア』ごっこみたいなことを録音して遊んでたんですよ。
当時は子供だから、アニメを録画して何度も見るという発想がないので、一生懸命1回見ただけでセリフを覚えて、台本に書き起こして、2人で演じてみる……みたいなことをしたりとか。
──それは凝った遊びですね!
堀江:
といっても、小学生のころだからめちゃくちゃですよ(笑)。
覚えているのは断片だけで、内容もきっといいかげんでした。
それで、大きくなって進路を決めるときに、「『ダーティペア』のユリになりたい」と思ったんですよね。
──それは役を演じるということですか?
堀江:
いえ、ほんものの探偵みたいな感じになりたかったんです。
でも、「現代の探偵って、私が思い描いてる仕事とはちょっと違う」というのは、さすがに知っていて(笑)。
──主な仕事は浮気調査、みたいなイメージあります。
堀江:
そうそう(笑)。なんとなく、派手なアクションはしなさそうだなって。
それに、もし『ダーティペア』がアニメでもも、もう1回作られることになったときに、普通の生活をしていたら多分声がかからないなって思って。それで、ユリみたいな職業に就くためには、声優になればいいんだな……と考えて、今ここに至るわけです。
──まさに「声優になったきっかけ」ですね! しかもラジオドラマ【※】で、実際にユリを演じましたよね。
堀江:
そうなんですよ! 原作の『ダーティペア』とはちょっと設定は違いましたけど、ユリを演らせていただいたときは、夢が叶ったと思いました。
私は、ちーちゃんと出会っただけでは声優になってないし、『ダーティペア』を見ただけでもたぶん声優になっていない。
ちーちゃんと一緒に、「この作品おもしろいよね!」ってめちゃくちゃ盛り上がって、そんなことが、確実に今に繋がっていると思うんです。それで今回、ふたつ揃って分岐点として選びました。
※2006年~2007年に放送された、ダーティペアを原案としたラジオドラマ『ラブリーエンゼル ユリ&ケイ』
分岐点3:声優養成所のオーディションを受ける
堀江:
そうなんです。
「私が『ダーティペア』みたいになれるのは画面の中だけだろうな」と思ったから、声優の養成所に入るためのオーディションを受けました。
実はそのときも、ちーちゃんと一緒に受けたんですよ。
──もう、人生の分岐点すべてに、ちーちゃんがいますね!
堀江:
ほんとうにそうなんですよ! 私は日本ナレーション演技研究所に特待生として入りました。
やっぱり、オーディションを受けるのも、ひとりだったらできてなかったと思うんです。
──ちーちゃんがいたから受けられたということですか?
堀江:
私は、もともとオーディションを受けるような活動ができるタイプじゃないというか、何かに挑戦をするタイプではまったくないんですよね。ただ、そのときは2人で一緒にテンションが上がっちゃって。
言葉は悪いかもしれないですけど、ふたりで遊んできたことの延長で、養成所のオーディションに向けたプロフィール作りとか、写真撮影をして、そのままの勢いで書類も出しちゃった、みたいな感じでした。
──なるほど。でも、そうやって勢いで飛び込んでみたものの、「なんか違ったな」とか「合わなかったな」で辞める人が山程いますよね。堀江さんはずっと続いたわけですけど、養成所に入った瞬間にカルチャーショックはなかったんですか?
堀江:
いやぁ、ありましたよ。カルチャーショックというか、本当に何も知らずに入ったんです。
養成所のオーディションのときに、「そっか、声優さんってお芝居をするんだった」と初めて自覚したくらいで。
──演劇部だとか、なにかそういう経験があったわけではないですものね。
堀江:
今思うと、私、よく受かりましたよね。
養成所に入ってからは、本当に初めてやることばっかりでした。「あ・え・い・う・え・お・あ・お……」の発声練習から始めて。「声優さんになるためには、こういうことやるんだなあ」と、驚きの連続でした。
──しんどくはなかったんですか?
堀江:
ひたすら、「声優にならなきゃ」という気持ちでした。特待生って、5人ぐらい同時に受かっていたんです。「自分だけ置いていかれるわけにはいかない!」って気持ちに、自然となったんですよね。
他の子たちは、私より歳上のちょっとお芝居に慣れている人もいたし、逆に私より若い現役女子高生みたいな子もいたんですけど、いろんな人がいる中で、自分だけ落ちこぼれるわけにいかないから、とにかく頑張らなきゃ! って。養成所には、その一念で通っていました。
──まわりと、いい意味での競争意識があった。
堀江:
競争というよりは、置いていかれたらどうしようの気持ちです。あとは養成所のつながりで、1年目からいろんな現場で見学させていただけていたんです。
「現場で育てる」みたいな意識があったのか、経験を早く積ませてくれていた。そういうのがあると「迷惑をかけちゃいけない」みたいな意識も芽生えますよね。
──周囲の期待と努力すべき状況があって、そこに応えていったんですね。たしかに堀江さんの出演作のリストを見ると、オーディションの1年後ぐらいからもうポンポンと大きめのお仕事も入っていく印象です。
堀江:
でも現場に行っても、本当に何もできないんですよね。でも迷惑をかけるのが嫌で、先輩たちの振る舞いを見ながら、「自分で何とかするしかない」って、そういう気持ちでずっと当時はやっていました。
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初ヒロイン作品はリテイクの嵐
──当時の参加作品で、育てていただいた意識のある現場はありますか?
堀江:
『鉄コミュニケイション』です。初めてアニメの、レギュラーとしてヒロインをやらせていただいた作品だったんですけど、音響監督の本田保則さん【※】は、優しいんだけど、厳しい方でした。
『鉄コミュニケイション』はヒロインの私だけが唯一のド新人で、作品の世界観もあって、まわりはすごい役者のみなさんが固めている現場だったんです。
※本田保則
1960年代の『マッハGoGoGo』『ハクション大魔王』などから、近年の作品まで活躍している大ベテランの音響監督
──『鉄コミュニケイション』は、文明崩壊後の世界が舞台で、堀江さんの演じたヒロインだけが人類最後の生き残りではないかといわれていて、まわりは基本、ロボットしかいないんですよね。
堀江:
そうそう。上手い方ばかりの中で、当然、毎回私だけが注意されて、何回も演じ直す感じなんですよ。
しかも本田さんは演出方法が独特で、どう受け取っていいか悩んでいると、まわりの先輩方がフォローしてくださったりもして。そうやって、本田さんも、他のキャストのみなさんも、何回も、何回も、私のリテイクに付き合ってくださって、時間をかけて収録してくださった。
──いい話ですね。
堀江:
本当にド新人がセンターをやっている感じだったので、先輩方は他の機会にもいろいろと話しかけてくださいました。あとは、収録後にご飯を食べに行けば、作品のことに限らず、いろいろなお話をしてくださって。
──暖かい現場だったんですね。
堀江:
いろいろなことがありましたけど、一番印象に残っているのは、今井由香さんとのやりとりです。今井さんはお話の途中から出てくる、もうひとりの人類の生き残りの男の子の役だったんです。そうしたら、「ふたりだけがこの作品に出てくる人間だから、いろいろ話し合いながらお芝居を作っていこう」と声をかけてくださって。きっとあれは、私が本当にお芝居に慣れていなかったからだと思うんです。
それで、アフレコにほかのみなさんよりちょっと早く来て、セリフ合わせみたいなことをやってくださった。「このセリフって、きっと、こういうことだと思うんだよね」みたいに、台本の解釈についても教えてくださって。今思うと、他にそんなことをやった機会って、この作品以外でないんです。
──マンツーマンでのそうしたやりとりは、他の方からも聞いたことがないです。
堀江:
そうですよね?
当時、それが特別なことって、私、わかってなかったんです。ものすごくお忙しかっただろう中で、今井さんがわざわざ時間を割いてくださっていたのが、どれだけありがたいことだったのか。今振り返ると、あらためて感じるものがありますし、すごく印象に残っていますね。
音響監督の本田さんも最後のアフレコのあと、「がんばったね」みたいなことをいってくださって。怒られてばかりでしたけど、求められてること、全部じゃないけど、ほんの少しでも応えられたのかな。そんな、救われたような気持ちになったのも、いい思い出です。
「どの現場でも自分がいちばん下手」
──アニメ・声優業界に飛び込んで、ゼロからのスタートで苦労を重ねつつも、外側からは順調にキャリアを重ねて来られたように見えます。でも、ご自身には壁を感じたり、葛藤された瞬間はあったのでしょうか?
堀江:
いや、もう、ずっとですよ。今でもあります。
──今でも、ですか!?
堀江:
ずっと、ずっと、ずーっと劣等感ですね!
本当にどこの現場に行ってもいちばん下手だなって思うんですよ。
──そんなことはないだろう……と思ってしまいますが、あくまで堀江さんの中ではそういう意識である。
堀江:
仕事を始めたころ、先輩たちばかりに囲まれていたあのころと、全然意識が変わらないです。
今でも、どの作品の現場でも、「みんな、上手い……」みたいな感じです。ずっとこの仕事に向いていないと思っているし、劣等感は抱えっぱなしです。「何でここにいるのかな?」みたいな意識があります。
──それはどうしてだと思いますか? ものすごい素敵なキャリアをお持ちなのに。
堀江:
養成所で学んだこともたくさんありますが、それ以上に現場に出て覚えたことの方が多いからかもしれません。
どこかで自分のことを、何だかアマチュアっぽいと感じてしまうんです。声優じゃなくて、「声優っぽい人」だと。
──それを聞くと、堀江さんの中での「声優」という職業のイメージが気になってしまいます。
堀江:
人それぞれな捉え方のある職業ですもんね。私は声優さんって、「職人」でありたい、みたいな考え方なんです。
お芝居だけじゃなくラジオもやったり、歌もうたわせてもらっていますけど、それはあくまで、「声の職人」であることから派生している仕事なんだ、というイメージなんです。
──「声の職人」。
堀江:
私がまわりからどう思われているかはわからないけど、私自身としては、そうあれたらかっこいいなぁって思います。
お芝居ができる人は、俳優さん含め、いっぱいいます。でも、そうした方々と違うことができるから、「声優」と呼ばれているわけじゃないですか。
──なるほど。俳優さんが声の仕事をやることもありますけど、それでも「声優」という職業はちゃんとあるわけですよね。
堀江:
絵に合わせる技術だったり、ほかにもさまざまな技術があって、「声優」という職種が成り立っている気がするんです。だから、我々にしかできないものをちゃんとやりたいなっていう気持ちがあります。
あ、ただ、「職人だから声に関係した仕事しかしません!」みたいにこだわることはなくて、いろんなことができる人は、どんどんやった方がいいと思いますけどね。できていたことでも、やらないと下手になっちゃうから。
──そうした高い意識があるから、「声優っぽい人」だとご自分を感じてしまわれるんでしょうね。しかしその、演じてきたキャラクターのファンは膨大にいるわけじゃないですか。そこと、ご自分のお芝居に対する劣等感のあいだのギャップは、どう感じておられるんですか?
堀江:
いやもう、みなさんが「好き」と言ってくださるキャラクターがいっぱいいるのは、「ああ、よかった!」と思っています。自分のせいでキャラクターが嫌われなくてよかった! って。それはやっぱりイヤなんです。
割とキャリアの初期から、もともと人気の高いキャラクターを演じさせていただく機会が多かったんです。作品のファンの方から「今でもあのキャラが大好きです!」みたいに声をかけていただくことも多くて、でもそれは本当に、そのキャラクターの力が大きいんですよ。だから本当に、自分がその、もともとあった力を大きく損なわなくてよかった、みたいな気持ちです。
実力は足りていなくても、一生懸命やろうとしていたことは多分伝わったのかな? って。
堀江由衣の未来
──では最後に、「3つの分岐点」の先にある現在、そして未来についてうかがいたいです。今の堀江さんがお仕事をやる上で、また、もっと広い意味で、人として生きる上で一番大切なんじゃないかと感じていることはなんでしょうか?
堀江:
……なんですかねえ。これ、難しくて、答えが出なかったんですよ。私が大切にしてること、どう思います?
──今日ここまでのお話を聞いてあらためて感じましたが、堀江さんはものすごくストイックですよね。ストイックさ、真摯さを大切にされていませんか?
堀江:
なるほどなあ。昔、言われたことあります。たしかラジオのお便りで、「堀江さんは仕事の鬼ですよね」みたいなことが書いてあって、そのときは「え、そうかな?」と思いました。
今でも、自分では、あんまりそういう意識はないですね。仕事が休みになったらうれしいタイプですし(笑)。
──でも、休みはうれしいけど、わざわざ、仕事をセーブしようとは思われないわけですよね。
堀江:
でもすごく仕事に積極的に打って出よう!…という事でもないです(笑)コロナ禍になって、自分の時間みたいなものが持てるようになっても、結局バタバタいろんなことをやって生きてますし(笑)。
うん、でも、そうですね。だから今大切にしていることというより、これから大切にしなきゃいけないと感じていることですけど、丁寧な暮らしをすることかな。健康でいること、元気でいることを大切にする。この仕事って、それがなかなか難しいところもあるんですけど。
……あれ、ちょっと期待されてる答えと違いますか?(笑)。
──いえ、すごく大切なお話だと思います。声優業界に限らず、心身の健康の大事さを、コロナ禍もあっていろいろな人が意識している昨今ですし。ちなみに、今の時点で、自分を常に健康に保つ、追い詰めないために心がけてらっしゃることはありますか?
堀江:
体の健康については、今のところあんまり大きい病気もしていないので、普通の範囲でやっています。メンタルはどうかなあ……よく一緒にラジオをやってる浅野真澄ちゃんからは、「ほっちゃんはすごくメンタルが強い」みたいなことをいわれるんですけど、その理由はよくわからないです。
ただ、「忘れる」ことと、「人のせいにする」のはいちおう、心がけていますね(笑)。イヤな心がけかもしれませんが。
──どうしても自分ひとりで抱え込む、自分の責任と考え過ぎるのも、真面目なようで不健全ですから。これも大切なことだと思います。
堀江:
そうなんですよね。大体のことって、原因は必ずしも白黒はっきりつけられない。自分ひとりの考えでは解決しない事の方が多い気がして…。そこで白か黒かをあれこれ考えていてもしょうがないので、そういうときは「相手が黒い」っていうふうに、思うようにしてます……やっぱり、すごい悪い人に聞こえちゃうかなあ(笑)。
でもそもそも、そうやって考えている時点で、「自分も良くないところがあったな……」って、頭のどこかで考えているんですよ。だから必要以上に悩みすぎない、反省しすぎない。
良し悪しのある考え方かもしれませんけど、私はそれぐらいの感じでやってます。でも、あんまり真似しない方がいいかもしれない(笑)。
──今後の野望についてはどうでしょうか?
堀江:
それはもう、やっぱり探偵になりたいです。
探偵みたいな仕事につきたくてこの仕事に入ったわりに、実は探偵そのものの役はあんまりないんですよ。プラネタリウムで上映される「『迷』探偵」のシリーズ【※】とか、そういったものはあったんですが。いつかアニメ作品で探偵になりたい。その夢は変わらないですね。結局、私が声優を続ける理由は、事件を解決してみたいっていう気持ちなんです。探偵の出てくるアニメ、もしありそうだったら、推薦してください。
※「『迷』探偵」のシリーズ
愛知県安城市文化センター内のプラネタリウムで上映されていた「迷?探偵クリス」シリーズ。2002年から2013年にかけて、シリーズ9作が制作された。
──探偵のこと、キッチリ記事に書いておきますね!
堀江:
でもこれ、昔からいろんなところで言ってるんですよね。
私のポンコツ感というか、普段のどんくささがたぶん、探偵と結びつかないんだと思います。まずそこから、どうにかしなきゃですね(笑)。
堀江由衣さんは、どこまでもプロフェッショナルだった。
インタビュー場所に現れると「これが堀江由衣か…!」と圧倒されるようなオーラを放ち、現場に良い意味で緊張感が生まれた。
決して、ピリピリした空気になるということではなく、程よく現場を笑わせて和ませながらも、、「いい仕事をするぞ」という集中力のようなものを現場に与えてくれるのだ。
これが、第一線で活躍して数々の名キャラクターを生み出してきた声優のパワーなのかと感じた。
インタビューは、仕事に対する対する真摯な姿勢から、「ちーちゃん」に関する親近感の沸くエピソードまで「堀江由衣のパワーの源」をいくつも知れるものになったと思う。
間違いなく、これからも堀江由衣さんの快進撃は続くだろう。
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